網棚

電車通勤を始めて一か月がたちました。
ラッシュの乗り方もだいぶこなれてきましたが、
網棚に荷物を乗せるときは必要以上に緊張します。
それにはこんな訳があるからです。


あれはもう三年ほど前でしょうか。
やっと乗り込んだ帰りの電車は
吊り革がちょうど埋まるくらいの「やや込み」。
座れるはずもなく、溜め息と共に僕は網棚へ
カバンと紙袋を乗せてドアに寄り掛かりました。


おっと、立てといたんじゃ止まるときに落ちてくるかもしれないな、
座ってる人の頭にでも当たったら大変大変…


そのまま寝かせたり、向きを変えたり、ひっくり返したりしていると。


真下に座っているおじさんがしきりに頭に手をやり、
小首をかしげています。
相変わらず網棚の上の袋をいじくりながら、
どうしたんだろうとおじさんを見た僕の目に飛び込んできたものは。


僕の紙袋からおじさんの頭へ降り注ぐ「さきいか」と「チー鱈」。


そう、その紙袋にはサンプルの残り物を捨てるに忍びなくてもらってきた、
いわゆる「かわきもの」をガサッと詰め込んでいて、
なかには口の開いた袋もあったのです。


僕があっと思ったその時おじさんもその正体に気付き、
「なにをするんだ」という目で僕を見つめます。
おじさんの長い人生の中でも、かわきものを頭から浴びたのは
今日がおそらくはじめてで、ていうかこの車両に乗っている人の中で
唯一の存在でしょう。よかったね、おじさん。


などといえるはずもなく、「す、すみません」と小声で謝った後、
次の駅でそそくさと隣の車両へと移動しました。


いやぁ、次の駅まで長かったこと。
それ以来、何度確かめたあとでもカバンの口が開いているような気がして
緊張感を感じるのです。


今日のおひるごはん情報
:若鳥のエスニック煮(鶏肉をスパイシーなソースで煮込んだもの。んまい。850円)