探偵物語

俺はヒロ。学生時代の先輩に巻き込まれるように探偵事務所を手伝っている。荷物の受け渡しを頼まれたら実はそれが密輸の麻薬で・・・なんてドラマのようなことが起こるはずも無く、今日も迷い猫を探してフラフラに・・・
「うわーあちぃあちぃ」
「おう、どうした、たまちゃんは見つかったか?」
「どうしたじゃないっすよ先輩、一人で涼しい事務所に閉じこもってないで手伝ってくださいよ」
「ばぁか、所長みずからそんな仕事したらこの事務所の格が下がるじゃねぇかよ」
「そんな仕事って、この手の仕事無くなったらこの事務所自体も無くなると思うんすけど」
「ルセぇ(ぱこっ)」
「ったいなぁ」
「ほら所長もヒロ兄ちゃんも、狭い事務所で喧嘩しないの!」
「んなこといったってゆみちゃんさぁ」
「はい、暑かったでしょ、麦茶冷しといたのよ」
「おーさんきゅうっ」
この娘はゆみ。別に兄妹ではない。いつのまにか事務所に居座るようになり、俺のことを「ヒロ兄ちゃん」と呼ぶ。俺はせめて「先輩」と呼べと言ってるんだが・・・


午後、再び「たまちゃん探し」に出掛けると言うと、ろくに無い事務仕事も終わらせて暇を持て余していたゆみが手伝うと聞かないのでしぶしぶ一緒に表に出ることに。
「んー、やっぱりお外は気持ちいい!!」
「あのなぁ、別に散歩しに来たんじゃないんだからな、ちゃんと探せよ」
「だって、こんないいお天気で、ヒロ兄ちゃんと二人っきり出歩いてると、まるで・・・」
「・・・まるで・・・?」
「・・・ううん、なんでもない!」
「?」
急に俺から目線をそらして早足になるゆみ。
「お、おい、ちょっと待てよ」
追いかけるように次の角を曲がると、黒塗りの車にスーツ姿の男が二人。
「お久しぶりですね、ゆみさん。」
「あなた・・・」「安永、何やってんだ?」
安永はつい先月までうちの事務所で電話番をしていた。とはいえ、こいつが勤めていたのは3ヶ月にもならないし、無口なんだが内気なんだか気が小さいんだか、良く分からないままに何時の間にかこなくなっていて、俺は一人で憤慨していた。なぜか先輩は何も言わなかったが。
「ゆみさん、ちょっとごいっしょ願えますか?」
「え?」「なんだよ、やぶからぼうに」
「さぁ、参りましょう」
「ちょ、ちょっと」「おい待てって」
「さぁさぁ」
俺のことは完全無視を決め込んでいるらしい。思わず安永の肩に手を掛ける。
「ち、ちょっとやめてください、光元さん関係ないでしょう!」
もう一人のスーツの男を気にしながら、甲高い声をだす安永。さっきまで脅そうとするかのような低い声を出していたのに、やっぱりよくわからねぇやつだ。
「いや、そりゃそうだけどさ、ゆみちゃんだって急のことで、ほら、びっくりしてるじゃねぇか。俺が一緒に行ってやりゃぁ、かえってお前の話も早く済むと思うぜ」
いかにも「お前の話」を分かってるように言ってみると、このはったりは意外と効いた。
「・・・わかりました。じゃぁ乗ってください。」
男が舌打ちしながらうなずいて運転席へ乗り込むのを確認してから、後部座席をあごでさして、安永は助手席のドアをあける。
「やったぁー、こんな高級車のリアシートだぜ、一回ふんぞり返って乗ってみたいと思ってたんだよなぁ。さ、ゆみちゃんも乗った乗った。あ、前のお二人さん、シートベルトはした方がいいぜ、そこの角出たところでちょうど検問やってたからな」
車道側のドアを開けてゆみちゃんを先に乗せ、後から乗り込む。前に座る二人が揃ってシートベルトを締め、ゆっくりと動き出そうとした。へぇ、交通法規は守るのね。いい子ちゃんだこと。ただ、その辺が悪いことに向いてないところなんだよなぁ。
「それ、いまだ!」
歩道側のドアを開けてゆみを押し出し、その勢いで自分も転がり出た。



「ごめんなぁ、ゆみちゃん、痛かった?」
「ったく、もうちょっとうまい逃げかたってのを思い付かないかなお前は。」
「あたしは平気だけど、ヒロお兄ちゃんこそ・・・」
「え、あぁ、こんなもん、かすり傷よ、はは」
自分も転がり出た・・・のは良かったが、受け身に失敗してアスファルトに情熱的なキスをしてしまっていた。とほほ。
「しっかし、安永の野郎何しに来たんだろうなぁ」
「おまえ、○○建設って、知ってるな。」
「? ああ、もちろんじゃねぇか、この不景気の中一人勝ちしてる建設会社だろ?」
たしか、つい先週工事の始まったこの駅前の再開発事業もそこの仕事のはずだ。
「ゆみはなぁ、そこの社長の一人娘だ」
「は?」
「そ、社長の一人娘にして、大株主様」
「はぁぁぁぁぁぁ????」
「なんだか会社がごたごたしてるとは聞いてたんだが」
「えーと。よくわからないんですけど。」
「ゆみは、なにかきいてるか?」
「もう少々詳しい説明が欲しいのですが」
「・・・そっか。ま、今日は疲れたろ。もう休もう。」
「出来れば図に書いて頂けると幸いかと」
「ヒロ、お前帰る時戸締まり頼むぞ。あ、ポットのコンセント付けっぱなしの時があるからな、気を付けるように。じゃ。」
「もしもーし。おーい。」


「いやぁ、今日も暑いなぁ、なぁ?やっぱりこういう日は冷やし中華かなぁ?ほら、事務所の裏手のラーメン屋、おとといから「始めました」ってポスター出したんだよ。しかしなんで冷やし中華って「始めました」ってポスターは出すのに、「終わりました」ってポスターは出さないんだろうなぁ?なぁ?へへ、どうこのギャグ、面白くない?は、はは、ははは・・・はぁ。」
ま、そりゃゆみの元気が無いのもしょうがない。昨日の今日だからなぁ。先輩は朝からいないし、無理矢理昼飯にかこつけて外へ連れ出したのも、良かったのかどうか・・・


「今日こそご一緒頂きますよ、ゆみさん」
ありゃ。しつこいやっちゃな。
「安永、だから無理矢理連れて行くなってば。なんでわざわざ事を荒立てようとするのかが俺には分からんよ」
「光元さんは今日は黙っていてもらいますよ。昨日とは違うんですから。」
ゆらっと5人ほどの影かこっちに近づいてくるのが背中越しに分かった。味方が多いと低い声が続くのか。分かりやすいやつだ。
「さ、まいりましょう、ゆみさん、今日は付き添いは必要ないでしょう」
「おいおい、だからなんでそう無理矢理・・・」
後ろから肩を掴まれるとぐいと引っ張られ、路地に連れ込まれた。
年の頃は45・6。小太りのおっちゃんがシャドーボクシングのようなそぶりでしたから睨んでくる。脅してるつもりなのかなぁ。
ふと気付いた。どうもこの人達は俺のことを買いかぶってるらしい。昼間の商店街に程近い場所で、俺が大声をあげれば人が集まってくるだろう。それが出来ないと思っているということは、自分達と同業者だと思い込んでいるということだ。ゆみを味方にしておきたい、彼らにとっての敵側の人間、と思われているということか。それだけ厄介なことにゆみは巻き込まれ始めているということなのか・・・


「ほら・・・静かにしてりゃなにもしねえよぉ・・・」
おっちゃんが絞り出すようにすごんだつもりの声で我に返った。そうだ、早く帰って先輩から詳しい話を教えてもらわないと。えーと、とりあえず一般市民の皆さんにご協力頂けるように、大声出してみますか。
「さぁ・・・こっからとっとと失せなぁ・・・」


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」



と、自分が出した声で目が覚めました。


夢ってのは後から思い出すと支離滅裂だから面白いんであって、こうもプロットがしっかり(しかもかなり安直に)しているのはいかがなものかと。
しかも、僕の中に潜む「妹萌え」の部分がでてきているのが、ものすごく恥ずかしい。こういうのもある意味「悪夢」ですね。


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:日清カップヌードル カレー・やきそばパン(7-11)